お別れのとき 最終回

ニューヨークの、T先生のご友人経営の幼稚園に着くと
たくさんの子供たちは、急に現れた40数名の大人たちに少し警戒気味。


日本人の駐在のお子さんなどがほとんどですが
小さいうちからニューヨークに住んでいるので日本語もままならぬ感じ。
大人たちが日本語で話しかけてもわかったようなわからないような・・・


最初から予定されていたかどうかは忘れてしまいましたが、
ご友人の紹介の後、T先生がたくさんの子供たちの前に立ちました。
で、いきなりご自身のことを「ゴリラ先生」と紹介したんだったかなぁ。
大人と話す時とはまるで違う様子で、子供たちに日本語で話しかけました。
恐らく、言葉はほとんど理解しなかったのではないかと?
記憶しています。
でも、思い出せないのですが、ものすごくインパクトのある
今まで見たことのないような抑揚と、ゼスチャー、顔の表情でした。


で、子供たちは引くんじゃないかと思ったら、
きゃーきゃー叫び、その全員が大きな声で笑ったのです。
あんな光景見たことなかった。
そのあとはT先生の表情に吸い寄せられるように、
何か一言発すると笑う。ものすごく楽しそうに。
言葉のリズムと言うか、その聞いたこともない抑揚が
子供にとってはとてもおもしろいんだな、と想像できた。


昔、タケモトピアノ〜♪のCMが始まると子供が惹きつけられて
テレビの前で一心に見入る、と聞いたことがありますが
まさにそんな感じ。


子供の心を一瞬にしてつかんでしまうT先生。
私がびっくりしていると、他の園長先生が
「T先生、すごいでしょ。あんな風に出来る先生はなかなかいないわよ。」
今でも、子供たちがどよめいてきゃっきゃっ嬉しそうに笑った瞬間を
はっきり覚えています。


最初にお会いした時怒っていらしたのは勿論理由があってのこと。
普段はこれだけ子供にとって優しくて楽しい、
人間的にも素晴らしい力を持った方なのです。
だからたくさんの人がついてくる。


クレーム処理に大事なことは、今自分が何をすべきかを考え、
ただひたすら誠意を尽くすこと。
お客様にとってよいと思うことを、精神誠意、やるだけです。

T先生のこの姿を見てから、私の気持ちも更に強くなり、
この立派な方の為に、どうか楽しい研修旅行になったと喜んで頂けるだけのことをしよう
と心から思いました。

そして、研修が終わる頃にはT先生の心をしっかり掴んだ私を
信頼して下さり、次回はヨーロッパへの研修旅行を任せて下さるに至りました。

その後もT先生のお嬢さんがかなP会に参加してくれたり
長いおつきあいが続きました。
今回の葬儀も、お嬢さんからの連絡で知りました。


病に倒れてからもずっと、元気になったら次はどこそこで研修をしたい!と
年賀状に書いて下さったり、諦めず戦っていらっしゃいました。
たくさんの子供たちの為にもこの方がもういらっしゃらないのは
本当に残念なことです。
T先生の声が今も聞こえます。


私も最後まで諦めず、いつも前をしっかり向いて生きていきます。
T先生、ありがとうございました。
心よりご冥福をお祈り致します。

《 完 》