偲ぶ

お世話になった会社の、社長が亡くなりました。
社長は、天皇陛下の公式訪問を受けたこともある、立派な会社をお創りになりました。
会葬礼状の中に、Quoカードと一緒に、『偲ぶ』というカードが入っていました。
薄墨で書かれたその二文字は、悲しさと何か不思議な温かさと優しさを感じさせる言葉でした。
私はふと、そのカードに命日を記し、これをとっておこうと思いました。

去年、肺がんで入院した社長から、一通のメールが届きました。
明日は奥様が来られないから、夕食と朝食を買ってきてくれない?というメールでした。
「何かリクエストは?」「朝食にねじれドーナツが欲しいんだけど」「??ねじれ、ドーナツ?」
「揚げたのでねじってあって、砂糖が・・。」「!あ〜ぁ!ツイストですね!」そんなやり取りの後、
閉店真際の松坂屋に飛び込み、和食のお弁当と、リクエストのツイストドーナツを買い、
病院へ向かいました。病室で一緒にお弁当を頂きましたが、
冷蔵庫からタッパーに入った手作りのサラダとおかずも頂きました。
奥様が前日に持っていらしたそうで、とても美味しく、これなら病院食が口に合わないはずだと
納得でした。「毎日いらっしゃるんですか?!」「そうだよ。」
私だったら、こんなに美味しいおかずを毎日、持って来られるかしら?と感嘆せずにはいられません。

思わず「いい奥様ですねぇ。大事にしなくちゃね。」と、言うと社長は深く頷き、照れたように、
にっと笑顔をお見せになりました。

その奥様と、ご夫婦でパラオ旅行に参加下さったのが、私にとって最初で最後にご一緒した
海外旅行となりました。

社葬会場で、奥様が涙ながらに「かなえちゃん、これからもお世話になるからね。」と
声を掛けて下さいました。
社長が「かなえちゃん」と呼ぶから奥様もそう呼んで下さる、
それが何かとても嬉しく、私の胸に温かいものを残しました。

心より、ご冥福をお祈り申し上げます。